Skyrim ( Xbox360 )

Rating : 8.7 / 10

 

実績は全解除、プレイ時間は約300時間。まあこんなもんである。

 

Skyrim が成功しているのは、シナリオの細部はプレイヤーの想像力に任せ、その道具となる世界観や環境を偏執的なまでに構築している点である。本作でプレイヤーの前に提示される「シナリオ」は、あくまで省略した記号に過ぎない。NPC の台詞も記号である。主人公が没個性なのは当然として、会話において NPC が話す言葉も大まかな立ち位置と性格を推測させるに留まっている。つまり細かい部分で自分で脳内補完しろと。主人公はドラゴンボーンという英雄候補であるから、多少のベクトルは持っている。例えば最初にホワイトランの町に入った時、鍛冶屋から鍛冶の手ほどきを受ける。NPC からは褒められるが、これを「全然ダメでオマエなんか使い物にならない、こんな鉄のダガーは売り物になんかならないから持ってけと追い払われた」に勝手に書き換えても一向に差し支えない。

 

戦闘に限っては難易度変更も RPG の範疇に含まれる。Very Easy にすればグインサーガのグインばりに強烈な超戦士の出来上がりである。一方、Very Hard にすれば剣の持ち方もロクに知らない市井の一般人がどういう訳かドラゴンボーンになってしまったお話が完成する。結果は提示されるが過程はお好きなように。まあ何だったら結果を変えちまっても構いませんがね。私はこの手の脳内変換が得意なので、もう好き勝手にいじくって大いに楽しんでいる。Oblivion では XBOX 版と PC 版で作ったキャラを同時に存在させて楽しんでいる。が、別に複数のキャラを作る必要もない。第一面倒臭い。キャラ一つで全部のコンテンツを消化して、後はそれを脳内で複数のキャラに分配させればそれでいい話だ。

 

つまり TES で提示されるシナリオは、記入済みのアイデアカードに留めていると解釈すればいい。シナシオを書くハウツー本でよく「アイデアカードを組み合わせてプロットを作れ」みたいなものがありますよね。クエストやミニクエスト、会話、ダンジョン探索などがそれぞれ1枚のアイデアカードとなる。これを組み合わせてプロットを作り、細かい部分は自分の中で組み上げる。それを外部に提示するかしないかは問題ではない。架空の世界を舞台にした話を作るにあたって最も難しい部分はしっかりサポートされている。Skyrim を RPG ツクールならぬお話ツクールとする解釈は、そう的外れではないと思う。

 

で、あるならば、自由度は高い方が良い。ゲームの中に存在する秩序の中でならどんな事でもできる方がよい。ところが本作では構呪が無くなったり、システムの盲点を突いたチート級の装備強化などが真っ先に修正されている。おそらく以後の TES はゲームとプロットツールの間を迷走するか、あるいはどちらか片方にふっ切れるだろう。Mod のサポート体制を考慮すると、バニラではゲーム化の方向へ向かう可能性が高いが。ツールとして考えるのであれば、Oblivion のカメレオン装備・全攻撃反射装備・構呪・附呪の類いはデバッグツールとなり得る。つまり、カメレオン装備で固めたプレイヤーを用意して盗賊ギルドのクエストラインを進めたとする。ゲームとして見ると完全にチートだが、ツールの視点から見れば何ら問題はない。主人公キャラクターは兵士の目の前を平然と歩いているが、プレイヤーの脳内では凄腕の隠密能力を持った主人公が兵士の目をかすめて素早く横を走り抜ける事にしてしまえる。

 

ここに TES の迷走の痕跡が見える。戦闘中であろうと、いかなるタイミングでも難易度設定を変更する自由を与えるのであるなら、チート装備の存在も許すべきである。オフライン専用であるなら尚更だ。マルチプレイゲームと違って、ゲームバランスが崩壊しても他人は困らない。その要素を採用するかしないかはプレイヤーが選択すればよろしい。しかし、実際には一方で難易度設定は好きな時に変えていいが、意図しないバランスブレイクは許さんと言う。これを私は「あくまで決められたレールの上を歩け」という開発者の意思表示と解釈する。それではつまらないではないか。8.7 のスコアはここいらの矛盾からはじき出した数値となる。これが無ければ9.5くらいになったのだが。

 

 

ところでPC版の話になると、Mod の存在により事情が全く違ってくる。Oblivion の Mod コミュニティは熟成したと見ているが、複数の Mod を組み合わせることにより、全く別のゲームをプレイすることができるようになっている。おそらく数年後の Skyrim もそうなっているだろう。こうなると完全にミドルウェアである。