Spec Ops : The Line ( PC )

Rating:7.8 / 10

 

 マルチプレイはイラネ、システム面は凡作、ただしシナリオが秀逸。という触れ込みであり、そのシナリオも「軍隊ばんざーい」のマッチョイズムへ真っ向から対決している‥‥と解釈している。そもそもミリタリー系のFPSやTPS全然やらないから比較しようがないので、この辺は他のミリタリー系ゲームプレイヤーの皆様へお任せである。

 

 プレイ時間は、Easy で無双プレイして、最後の方で死にまくって7時間弱だった。明確に提示されない選択を試してみたいと思うなら2周・3周もできる。マルチランゲージで日本語字幕にも対応しているPC版が投げ売りされていることが多く、Steam でセール時に10ドルくらいから、Amazon だとダウンロード販売で1400円くらい。フルプライスだとボリューム不足と感じるかもかも知れないが、プレイ時間の短さが中だるみの無さに繋がっている。最近ゲームに対する集中力が落ちてきていると嘆いている私も一気に最後までプレイできたので、値段の下がっている今なら買い時である。グラボは Radeon HD 6670、設定はウィンドウモードで 1024 x 720、テクスチャーのディティールを上げ気味にして影描画を下げると、特にストレスを感じない fps を確保できた。

 

 

 以下は若干のネタバレを含むので、未プレイで興味のある人は全力で回避を奨励。ネタバレなしの海外レビュー和訳なども参照のこと。

 

 

 さてそのシナリオ部分はどうか。各エピソードは情け無用である。「軍だと。任務だと。軍とはこれだ。任務とは、こういう事だ!」の死体オンパレード。私がマネジメント業務に片足を突っ込んだ時に「最悪の事態を回避するために最も望ましい手段を捨てて最善の策を取る」をひとつの指標にしてみた事がある。その「最善の策」を取ったところ悪い方へ悪い方へどんどん転がっていく負のスパイラルのドツボっぷりがたっぷり堪能できる。本作はそもそも「最も望ましい」手段すら分からない一寸先は闇の有様である。ところが全体のあらすじを簡単に説明しようとすると、説明不足が目立ち意味不明となってしまう。日本語のシナリオ考察で充実しているのがPCゲーム道場ネタバレ考察ページで、ここを読む限り大人の事情で説明不足になってしまったようだ。私はシナリオ上重要などんでん返しに気付かず「既視感ですね」で片付けてしまったぞ。

 

 もう一点の疑問は、シナリオで派手にカウンターを食らわせた割には結局これも大勢の敵兵をドンパチ倒して進んで行くミリタリーシューターのスタイルを踏襲してね? という所。この辺は軍事方面に詳しくないので断定はできないのだが、例え精鋭だとしても、3人のチームが続々と現れる敵数十人相手の戦闘を連続で続けられるもんなのか? ましてや潜入ミッションなので現地での補給はどうなる。ただし私がプレイしたのは難易度 Easy であり、Normal 以上だと死にまくるとのこと。このシナリオだと死ぬのもアリな訳で、「ゲームオーバー = 無かった事にしてロールバック、ではなく単にふりだしに戻る」という解釈も可能である。始点が遅いという問題が発生するけど。

 

 一方で注目したいのは、その場その場の選択肢の提示の方法である。象徴的なのが以下のようなシーン。砂漠において水は貴重であり、水泥棒は重罪である。一方にその水泥棒を吊す。もう片方には、水泥棒を罰するために無用な殺しを行った軍律違反の兵士を吊す。両者は遠方からスナイパー数名が狙いをつけている。でもって「どちらを罰する(殺す)か選べ」と選択を迫られる。通常なら選択肢を画面に出して行動を選ばせるはずだが、このゲームは違う。通常のゲーム操作に戻してプレイヤーに全部任せてしまうのである。そしてこういうシーンの大半は数秒で決断をしなければならない。なぜなら事態は常に進行しているので、決断をしなければ「傍観」「何もしない」という決断を下したと見なされるからである。

 

 上記の場合で取れる行動は何か。「水泥棒を殺す」「軍律違反の兵士を殺す」は鉄板。「吊しているロープを撃って両者を逃がそうとする」も可能らしい。「いっそのことスナイパーに発砲」なんかもできる。どうぞご自由に。なお、こうしたシーンにおいては部下が都合よくその場に必要と思われる武器を持っているので、プレイヤースキルはほぼ不要である(ここに気付くかどうかも「選択」に含まれるそうで。初回プレイでは気付かずに、人質が死にました)。うまいこと考えましたね。ここに本作が意識したという Bioshock が掲げる「選択」に対する回答が明確に提示されている。シナリオ運びによってはこういう事もできるンですよ、選択肢を画面に明示しなくてもいいンですよ。ただし、Bioshock と本作では選択の質が異なるので、単純に同じ土俵に上げるのは見当違いだろう。価値観の違いを選択させる Bioshock に対して、本作は「どう足掻いてもドツボ」という線が入っている。このゲームの特色は、一見して自由な選択肢を与えておいて、自由度の高さによってとっちらかるはずのストーリーを、ストーリーそのものの方向性の狙いを定めることで見事に一本道に誘導して見せた所にある。

 

 

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