Jurassic Jade / 「天の咎」 & 「地の仇花」

Raring:10 / 10

「そこには、誰かを貶めたり、誰かを傷つけるために書かれている言葉は実はないからです。たぶんそれをうまく読み取れない人にとっては、殺伐とした、嫌な、気持ちの悪い言葉が羅列されているかと思いますが、それは読み取れてないからだと思います。そして、読み取っていただければ、これはものすごいエールになる言葉が書かれていると思っています」

――DVD「懺悔の赤」Nob(ギター担当、バンドリーダー) インタビューより

 

 以上の言葉は Jurassic Jade を的確に表現している。

 

 ゲームの「面白い」と音楽の「面白い」は少々ニュアンスが異なる。ゲームの「面白さ」は「楽しさ」と同等の解釈で使用されるが、音楽の「面白さ」は、とどのつまり山崎智之が言うところの「シンクロ率」に直結する。楽しい必要はない。楽しくなくても一向に構わない。聴くことが苦痛・拷問的でも構わない(ただし拷問系は根がマゾでなければ無理だが。Sunn O))) を褒める人間の本質はマゾヒストの性癖を持つ。そうでない人間が Sunn O))) を褒める行為を Poser と呼ぶ)。何が何だか判らないがとにかく凄いのである。

 

 本作は過去の音源の再発である。いずれも店頭では入手困難であり(ライブ会場の物販ブースやバンド宛に通販を頼むことで簡単に入手できたりしていたが)、これらが Disk Union 配下の BTH からリリースされたことで、Jurassic  Jade の全てのリリース作品が BTH に集結したことになる。CD ショップで注文すれば入手できることになったのは目出度い。

 

 「天の咎」は BYS.Recored 時代の「After Killing Mam(After Killing Man ではない)と「ドク・ユメ・スペルマ」の2作、「地の仇花」はハウリング・ブル時代の「Wonderful Monument」「Left Eye」のカップリングに、現在の編成・やり方による再レコーディングをそれぞれ2曲ずつ収録している。

 

 とりあえず恐るべき「After Killing Mam」がリマスターされているという時点でどうかしている。あれは「アコースティックものをきれいに録られる方」がエンジニアに起用され、それによる齟齬で音質がいまいちなのが唯一の救いだったのである。これをクリアな音質でやられるとたまったものではない。オリジナル版と再発版を比較してみると、音圧は上がったが根本的な部分は不変なので安心した。理由は簡単である。聴く人が聴けばトラウマものの歌詞がずらりと並んでいる。だいたい何だ、「お母さん、殴るために私を産んだのですか」(Chaos Queen)とかいう物凄い歌詞は。

 

 After Killing Mam の前半部分と、その前作である「誰かが殺した日々」の後半部分の歌詞は熾烈を極める。Jurassic Jade はたまにユーモアを交える歌詞も存在するが、この近辺の歌詞はユーモアの欠辺もない。ひたすら内に向かっている。「誰かが殺した日々」の後半は自殺した友人へのレクイエムであり、続いて精神安定剤への決別宣言であり、次にそこへ至る理由が語られる。「After Killing Mam」はそれを受けて開幕からトラウマ・ソングの弾幕が展開される。シンクロしてしまえば生涯に擦痕を残すこと請け合いである。逆にシンクロしなければ5秒で「もういいです」となる。これを判る奴・判らない奴で語ることはナンセンスである。その歌詞に共感できるか、できないかの問題なのである。理解できる・できないの優劣など存在しない世界なのである。

 

 再録バージョンについて補足する。「天の咎」は日本語主体の歌詞を用いている曲を選んでいる。一方で「地の仇花」は全歌詞を英訳して歌っている。この対比は意図的なものであろう。特筆するべきは「天の咎」で再録されている「Chaos Queen」である。1997年のオリジナル版では叫ぶのみだったボーカルが、再録版ではほとんど朗読に近くなっている。上記で引用した「お母さん、殴るために私を産んだのですか。死ねばよかった、誰か手を貸してくれ」を朗読すんなや。こりゃ引くわ。ドン引くわ。次のライブでは是非、この朗読バージョンで演奏していただきたい。ベーシストがエフェクター使いに交代していることで環境がぐわんぐわん言っている(ライブではもっとぐわんぐわん言っている事を確認している)。失礼な話だが、叫ぶことで誤魔化さずにいられなかったこの歌詞を、15年経過した2012バージョンで朗読できるようになったことはある種の感慨を覚える。

 

 Left Eye リリース直後のフールズ・メイト誌のインタビュー(昔はともかく今ではヴィジュアル系の音楽誌でなぜこのバンドが? ここだけ空気違うぞ。ぱふ誌の平野耕太のインタビューかおのれは)で自分のことを「オバサン・デイビス」(Korn のジョナサン・デイビスのパロディである)と言っていたボーカリストの歌詞は日本語と英語のミックスであり、内容は希にユーモアを交えつつ苛烈である。ま、この blog を定期的にチェックしている奇特な方はこのバンドをチェックしてみる事をお勧めする。訳がわからない? 1万回聴けとか頭の悪い事は言わない。半年寝かせて思い出した頃にもう一度聴けばいい。それでもイミフならもう半年寝かせてしまえ。そのうち判る時が来る。ちなみに私は半年間、CD棚の奥に放り込んだままだった。何かの拍子にもう一度聴いた時にピピッと来た口である。

 

 私は幸か不幸かシンクロしてしまい、おかげで今日まで生き延びる羽目になった。そういう意味において Jurassic Jade は人生を変えたバンドと言える。これはもう、新録 Chaos Queen の壮絶さだけで満点に値する。

 

 ちなみに0点と満点は良くも悪くも思い入れ全壊なので、私はこの両極端の点数のレビューは参考にしていない。その辺を差っ引いて判断していただきたい。